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Subjectivity and Objectivity 主観性と客観性

主観性 (Subjectivity)

設計における主観性 

設計における主観性は、設計者の個性や独自の視点を反映し、ユニークで感性的なデザインを生み出す原動力となります。これにより、利用者に強い印象や感動を与える空間が実現する可能性があります。しかし、主観性が過度に強調されると、利用者の多様なニーズや客観的要件が十分に考慮されないリスクがあります。たとえば、建築家の強い意図に基づいたデザインが、実際の利用者にとって機能的でない場合や、地域文化との適合性を欠く場合があります。また、主観性に基づく設計は、関係者間の合意形成を難しくすることもあります。

評価における主観性

評価における主観性は、審査員や評価者の経験や感性に基づいてデザインの質を評価する際に重要な役割を果たします。これにより、数値化が難しい要素や直感的な価値が評価に反映されます。しかし、主観性が評価の中心となる場合、評価基準が曖昧になり、一貫性や公平性が損なわれるリスクがあります。たとえば、建築コンペでは、審査員の個人的な好みが結果に大きな影響を与えることがあります。また、文化や背景の異なる審査員間で意見が分かれる場合、評価の基準が不明確になることもあります。

主観性の種類

建築における主観性は、設計や評価において個人や集団の感覚、経験、価値観に基づいた要素が影響を与える性質です。個々の具体的な性質を建築デザインにおいて使い分けることが重要です。

1. 感覚的価値(Sensory Value)

  • 視覚的、触覚的、聴覚的などの感覚的体験
    個々の利用者が建築物をどう感じるかに基づく評価。 例: 光の演出、素材感、音の響きなど。

     

2. 美的判断(Aesthetic Judgment)

  • 美しさやデザインの魅力に対する個人の評価
    美的感覚やスタイルに対する感受性。 例: 形状や色彩、質感の好み。

     

3. 心理的影響(Psychological Impact)

  • 空間が与える感情的・心理的影響
    安全感、落ち着き、活気など、空間が心理的にどう作用するか。 例: 暖かく感じる色使いや開放感のある空間。

     

4. 文化的背景(Cultural Background)

  • 文化や社会的背景に基づく評価
    地域特有の価値観や歴史に基づいた反応。 例: 古典的な建築様式が好まれる場所や、モダンなデザインが評価される地域。

     

5. 個人的経験(Personal Experience)

  • 個人の過去の経験や思い出が設計に与える影響
    利用者が過去に経験した空間や建築の印象が、評価や好みに影響を与える。 例: 特定の場所や建物が過去の思い出と結びついて感情的に影響する。

     

6. 価値観(Values)

  • 倫理的、社会的、経済的価値観の影響
    利用者の価値観や信念が建築の評価に反映される。 例: 環境に配慮した建築が評価される場面。

     

7. 快適性(Comfort)

  • 空間や設備の快適さに対する主観的な評価
    温度、湿度、音、光などが与える身体的・心理的な快適さ。 例: 家庭的な空間の居心地の良さ。

     

8. シンボル性(Symbolism)

  • 建築が象徴的に意味を持つかどうか
    建築が個人または集団にとって象徴的な意味を持つ場合、それが主観的な評価に影響を与える。 例: 特定の建築物が歴史的・文化的なアイデンティティの象徴となる。

     

9. 空間的感覚(Spatial Perception)

  • 空間の広さや閉塞感、開放感に対する主観的評価
    空間の感覚がどれだけ快適か、または圧迫感を感じるか。 例: 天井の高さや開口部の大きさによる心理的効果。

     

10. 身体的体験(Physical Experience)

  • 建築物を物理的に使用したときの体験
    使いやすさや動線、アクセスのしやすさが個人の評価に影響。 例: 利用者の動線や設備の使い勝手が心地よさに繋がる。

     

11. ストーリー性(Narrative Quality)

  • 建築が持つ物語性や時間的な流れ
    設計がどれだけ人々の記憶や感情を動かすか。 例: 歴史的な背景を持つ建築物が、利用者にとってどれだけ記憶に残るか。

     

12. 美的多様性(Aesthetic Diversity)

  • 多様な美的観点の共存
    様々なデザインスタイルや色彩、形状がどのように評価されるか。 例: 異なる文化や背景を反映したデザインが個々に異なる反応を引き起こす。

     

13. 直感的な評価(Intuitive Evaluation)

  • 無意識的・直感的な印象
    詳細な分析ではなく、直感的に「良い」と感じるかどうか。 例: 建物に入った瞬間に感じる心地よさや安心感。

     

14. 自己表現(Self-Expression)

  • 建築物が個人のアイデンティティやライフスタイルを反映するかどうか
    利用者が建築物を通じて自分を表現できるか。 例: ユニークなデザインの家が住人の個性を反映。

客観性 (Objectivity)

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設計における客観性 

設計における客観性は、法規や基準、統計データ、科学的根拠に基づいてデザインを構築することで、実現可能性や機能性の高い計画を生み出します。これにより、関係者間での合意形成が容易になり、汎用性の高い設計が可能となります。しかし、客観性を過度に重視すると、設計が画一化し、創造性や独自性が失われるリスクがあります。たとえば、耐震基準や省エネ性能を優先する設計では、建築の独創性や美的価値が制約される場合があります。また、統計データや規範に過度に依存することで、利用者の感性的なニーズが十分に反映されない場合もあります。

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評価における客観性 

評価における客観性は、統一された基準や数値データに基づいてデザインを公平に評価する手法であり、透明性と信頼性を確保します。これにより、審査結果が合理的で説明可能なものとなり、広範な支持を得ることが可能です。しかし、客観性の追求が過剰になると、定性的な価値や文化的背景が軽視されるリスクがあります。たとえば、建築コンペでの環境性能評価やコスト分析は客観的な指標に基づきますが、それだけではデザインの美学や社会的影響を十分に評価することが困難です。また、評価基準が画一的である場合、新たな発想や革新的な提案が正当に評価されない場合もあります。

客観性​の種類

建築における客観性は、個人の感情や価値観に依存せず、普遍的な基準やデータに基づいて設計や評価を行う際に求められる性質です。個々の具体的な性質を建築デザインにおいて使い分けることが重要です。

1. 数値基準(Quantifiable Metrics)

  • 測定可能な数値やデータに基づく評価
    面積、コスト、耐震性能、エネルギー効率などの数値指標に基づく判断。
    例: 建築基準法に基づく建蔽率や容積率の適合。

     

2. 規制遵守(Regulatory Compliance)

  • 法規制や基準に基づく適合性の判断
    建築基準法、防火基準、環境基準などの法的要件を満たしているか。
    例: 耐震等級や断熱性能の基準適合性。

     

3. 環境データの利用(Environmental Data Utilization)

  • 環境に関するデータを用いた評価
    温室効果ガス排出量、エネルギー消費量、再生可能エネルギー利用率。
    例: CASBEEやLEEDスコアによる評価。

     

4. 構造的安全性(Structural Safety)

  • 構造設計における科学的・技術的な基準の遵守
    地震や風荷重に耐える安全性の数値評価。
    例: 構造計算に基づく安全係数の設定。

     

5. 再現性(Reproducibility)

  • 設計や評価の結果が誰にでも同じ結果をもたらすか
    設計手法や評価基準が明確で、他者が同じ条件で検証可能。
    例: 同じ条件下でのエネルギーシミュレーションの結果。

     

6. 評価基準の統一性(Standardization)

  • 統一された評価基準を用いる
    国際的または国内で認められた規格やガイドラインに従う。
    例: ISO基準やJIS規格。

     

7. 論理的整合性(Logical Consistency)

  • 矛盾のない論理に基づく判断
    設計や評価が合理的で科学的な根拠に基づいていること。
    例: 動線計画が利用者の行動パターンに基づいて設計されている。

     

8. 性能検証性(Performance Validation)

  • 設計や計画の性能をデータで検証
    実測データやシミュレーション結果に基づいた性能確認。
    例: 断熱性能や空調効率の数値評価。

     

9. 汎用性(Universality)

  • 多様な利用者や状況に適応可能な設計
    特定の価値観に偏らない普遍的な設計アプローチ。
    例: ユニバーサルデザインの考え方。

     

10. 比較可能性(Comparability)

  • 他の建築物や計画と直接比較可能な指標
    他プロジェクトとコスト、エネルギー効率、耐久性などを比較。
    例: LEED認証のスコア比較。

     

11. 科学的根拠(Scientific Basis)

  • 科学的なデータや理論に基づく設計
    自然科学や工学の知見を活用。
    例: 光熱負荷計算や風洞実験の結果を設計に反映。

     

12. 応用可能性(Applicability)

  • 特定の条件下での再現や適用が可能
    他のプロジェクトや地域で再現可能な設計手法や評価。
    例: モジュール化された設計。

     

13. 公平性(Fairness)

  • 特定の個人やグループの価値観に偏らない設計・評価
    客観的で中立的なアプローチ。
    例: 公共施設の設計で利用者全体を考慮した設計。

     

14. 実績データ(Empirical Data)

  • 過去のプロジェクトや実績に基づく評価
    実績データを用いて、成功率やリスクを予測。
    例: 過去の同規模プロジェクトからの学び。

     

15. 効率性(Efficiency)

  • 資源やコストの無駄を最小化
    明確な目標と基準に基づいて最適化。
    例: 工期やコストの計画。

主観性と客観性の使い分け


1. 主観性が重視される用途と敷地
 

用途

  • 個人住宅・別荘
    理由: 住む人の価値観やライフスタイル、趣味嗜好を反映したデザインが求められる。

  • 芸術的建築物
    例: アートパビリオン、モニュメント
    理由: 建築家の創造性や思想、感性を最大限に表現することが主な目的となる。

  • 小規模店舗・カフェ
    理由: 店主のコンセプトやブランドイメージを強く反映し、個性的な空間を作り出すため。

敷地

  • 自然環境に囲まれた場所
    例: 山岳地帯、海岸沿い、森林の中
    理由: 建築家やクライアントの個人的な視点で、周囲の自然を感じるためのデザインが重視される。

  • 歴史的背景のある土地
    例: 伝統的な町並みや歴史的建造物が残る地域
    理由: 地域文化や歴史をどう解釈しデザインに取り込むかが重要で、個人の視点が大きな役割を果たす。

事例

  • 国内: 隈研吾設計の「星のや竹富島」(地域性と個人の解釈を融合)

  • 海外: フランク・ゲーリーの「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」


     

2. 客観性が重視される用途と敷地
 

用途

  • 公共施設
    例: 学校、病院、図書館
    理由: 多くの利用者に対応し、公平性や機能性を確保することが必要。

  • 都市インフラ
    例: 駅、空港、道路施設
    理由: 利便性、安全性、効率性を基盤としたデザインが求められる。

  • 産業施設
    例: 工場、物流センター、オフィスビル
    理由: 業務効率や生産性を重視し、利用者の特定の感性よりも汎用的な基準で設計される。

敷地

  • 都市部の商業地域
    例: 駅前の再開発エリア、高密度商業地区
    理由: 多くの利用者や事業者が関与するため、客観的な基準で効率的な計画を立てる必要がある。

  • 災害リスクのある地域
    例: 津波や洪水の可能性が高いエリア
    理由: 科学的根拠や防災基準に基づいた設計が最優先される。

事例

  • 国内: 東京駅リニューアルプロジェクト(普遍的価値を重視)

  • 海外: ロンドンの「ヒースロー空港ターミナル5」(機能性と客観的設計)


     

3. 主観性と客観性が両方重視される用途と敷地
 

用途

  • 商業複合施設
    例: ショッピングモール、テーマパーク
    理由: 利便性や機能性を確保しつつ、魅力的で個性的な空間デザインを提供する必要がある。

  • 環境配慮型建築
    例: ZEB、LEED認証建築
    理由: 科学的な環境性能を達成しながら、デザイン性や地域性を反映する必要がある。

敷地

  • 観光地や文化遺産エリア
    例: 京都の祇園地区、奈良の古都エリア
    理由: 歴史や景観を尊重しながら、訪問者に感動を与える空間を作り出す必要がある。

  • 都市再開発エリア
    例: 渋谷スクランブルスクエア、大阪のグランフロント
    理由: 多様な利用者ニーズに対応しつつ、象徴的なデザインで都市のブランド価値を向上。

事例

  • 国内: 東京ミッドタウン(利便性と独自性の融合)

  • 海外: シンガポール・マリーナベイサンズ(機能性と象徴性の共存)

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